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「ひっ」
青年の顔が歪むと同時に女が空を仰ぐように顔を上げた。
線の細い顎先を何かが掠める。
女はそのまま後転飛びに繋げて距離を置った。
青年の靴の爪先には穴が一つ。
何処からかパトカーのサイレンが聞こえた。
「チッ……」
女は顎から滴る血を拭うと短剣とは反対の手で厚いベルトから何かを引っ張って、それを上に投げた。
「し、しシ死ネェェえェェ!?」
青年は錯乱した様な悲鳴に近い声を上げ、ボストンバックを投げ出すと手の先から爪先まで女に向けた。
女はベルトのバックルに手を掛ける。
手からは六本、足からは九本、青年に残っていた指の全てが打ち出された。
青年が勝利を確信した時、女は飛翔した。
指弾は彼女の真下を過ぎ、建物の壁を貫通して行った。
上を向くと同時に、青年の生涯は赤く染まった景色を最期に幕を閉じた。
女は、額に短剣が突き刺さった屍の前に降り立った。
「あ~あ。顔にキズ付いちったな……。ちゃんと消えるかなァ」
恨めしそうに顎を擦る。
女は前屈でもする様に上体を曲げると、指先で短剣の柄をつついた。
すると短剣はパイポに姿を変え、青年のぱっくりと割れた額から転げ落ちた。
サイレンの音が近くなった。「退き時かな……」
そう呟いて懐からシガーケースを取り出すと、パイポを一本取りだして口にくわえた。
女はベルトに仕込んだカラビナ付きのワイヤーを引き、建物の上に投げた。
柵にぐるぐるに巻き付いた事を確認せずにバックルのスイッチを押して、彼女は高く飛び上がった。
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