第一章

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とある建物の二階には、ある程度手入れが行き届いた事務所。 窓際には書類が溜まったデスクが一つ置かれている。 その席には、その場に不相応な立派で柔かそうな革の椅子。 それには女が腰掛けてふんぞり返っていた。 彼女は暗い雲に覆われ、雨が降り注ぐ空を窓越しに見上げている。 デスクの上に置かれたシガーケースから禁煙パイポを一本取り出し、口にくわえた。 年は二十に届くか届かないか。 髪は染めておらず、黒髪を旋毛の下あたりで細いリボンで適当にくくっていた。 服装は白の肌着にジーンズ。 色気もへったくれもないが、顔と髪以外にも彼女が女である事を強調するものが一つあった。 それは、たわわに実った大きな胸だ。 稲瀬五十鈴(いなせいすず)、それがあたしの名前。 あたしはいま、訳有って探偵事務所の助手として働いている。 でも、探偵事務所とは建前だったりする。 それより、最近は探偵としての仕事の方が多くてイライラしている。 いつも同じ様な依頼で飽き飽きだ。 そうこんな雨の日には特に多い。 気分が陰鬱になって心配の種から芽が出てしまうのだろう。 ガチャリと玄関口が開き、四十代後半ほどの小太りな女性――クライアントが現れた。 「すみません。依頼したい事があるんですが、お時間よろしいでしょうか?」 ここに来る人は大体同じような事を言う。 そして、次にはこれだ。 「実は夫が浮気をしているようでして………」 五十鈴はあからさまに面倒くさそうに深くため息をついた。
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