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「でも、何で?」
隆吾は、そう聞く三伍の視線を左頬に感じ取りながら、
「事情が変わったんだ。まぁ、それは後だ」
と、明言を避けた。
「そう」
と、納得を見せた三伍は、自分って意地悪だなと思いつつ、
「何で俺が乗ってた汽車の到着時刻がわかったの」
と、隆吾に問いかけた。
「親父に聞いたんだ」
そう答えた隆吾に、三伍はニマっと笑いながら、
「親父に言ってないけど」
と返した。隆吾は慌てた様子で、
「女将だったかな」
とか、
「総支配人だったかな」
と、取り繕ってみたが、三伍は全て、
「言ってない」
と、切り替えした。事実、三伍は誰にも言わずに帰省している。知っているのは切符を送りつけた人物だけだ。
隆吾の困っている表情を楽しみながら、三伍は切符と一緒に送られた『至急。父より』と書かれたメモを、ジャケットのポケットから取り出して運転席へ差し出した。
「兄貴の字は癖字だからな」
隆吾は照れた笑いを浮かべながら差し出されたメモを受け取り、
「わかってたのか」
そう言いながら、器用に片手で丸めたメモをジャケットのポケットへ封印した。
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