1.

5/6
前へ
/7ページ
次へ
「でも、何で?」  隆吾は、そう聞く三伍の視線を左頬に感じ取りながら、 「事情が変わったんだ。まぁ、それは後だ」  と、明言を避けた。 「そう」  と、納得を見せた三伍は、自分って意地悪だなと思いつつ、 「何で俺が乗ってた汽車の到着時刻がわかったの」  と、隆吾に問いかけた。 「親父に聞いたんだ」  そう答えた隆吾に、三伍はニマっと笑いながら、 「親父に言ってないけど」  と返した。隆吾は慌てた様子で、 「女将だったかな」  とか、 「総支配人だったかな」  と、取り繕ってみたが、三伍は全て、 「言ってない」  と、切り替えした。事実、三伍は誰にも言わずに帰省している。知っているのは切符を送りつけた人物だけだ。  隆吾の困っている表情を楽しみながら、三伍は切符と一緒に送られた『至急。父より』と書かれたメモを、ジャケットのポケットから取り出して運転席へ差し出した。 「兄貴の字は癖字だからな」  隆吾は照れた笑いを浮かべながら差し出されたメモを受け取り、 「わかってたのか」  そう言いながら、器用に片手で丸めたメモをジャケットのポケットへ封印した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加