三章 夏の終わり

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「今日はここまで。お疲れ」   「また暇な時相手してね~」   手を振って別れの挨拶をすると、向こうも申し訳程度に応えてくれた。   泪の生活は何かと忙しい。幼い頃に最低限の学問知識しか習わなかったから、勉強に関しては皆より遅れている。それを取り戻そうと、この一年間必死に頑張っていた。   その成果もあり、今ではこうして時間を作ってくれる余裕も持てたそうな。   どれも泪から聞いたわけではなく、京子さんからの話だ。元来無口で負けず嫌いの彼女からは絶対に言わない。   「明後日でもう二学期かぁ……」   誰もいない体育館に寝そべって、天井を何となしに見つめる。思えば、この一年はここにいたのが一番長かったかもしれない。   執行委員会の出動はあっても一ヶ月に一回。帝国に例の三人が加えられ、また隠力者の犯罪の取り締まりに厳しくなった結果、私達の仕事は自然と軽くなっていった。   理絵ちゃんや來亜ちゃんは程々にとはいつも言っている。二人からしたら私は訓練馬鹿らしい。   「まだいたのね」   天井を隠すようにして覗き込んできたのは、噂をすればの人だ。   ツンデレの女王こと理絵ちゃんの登場である。   「何にやけてるのよ?」   「俺に何の用だ?」   「何それ。闘刃さんの真似?」   「あはは、似てないかな。でも理絵ちゃんはどうしてここに?」   今日は特に訓練も遊ぶ予定も約束はしていない。暇だから来たとか?   そんな考えは次の一言で完全に掻き消された。   「宿題、やった?」   …………え?
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