二章

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それは一番消してしまいたい記憶だった。 「俺のしるしだ」と隼人は言った。 オレは泣き叫びながら苦痛を受け入れたのを覚えている。 あまりにも理不尽で凄惨な行為の数々に、いっそ記憶を失くしてしまいたかった。 けれどその痕は今も残っていてオレを苦しめ続けている。 そしてその行為の最中に隼人は何度も繰り返した。 お前は俺のモノだ、忘れるなと。 朦朧とした意識の中で、だがオレは決して頷くことはしなかった。 それが何であったとしても お前の気持ちなんか、知りたくもない。 「………ぅ…」 下腹部の鈍い痛みで目が覚めた。 次に嗅覚が強く刺激される。これは自分がもっとも嫌いなにおいだ。 煙草のにおい。 「…っげほ」 「やっと目ぇ覚ました」 薄暗い空間の中で、ゆっくりと振り向きながら隼人が言った。 オレはそれに驚き、離れようとしたが身体が重くて上手く動かせない。くそ、思い切り腹に入れやがって… 身体が動かせない分、頭だけ動かし辺りを見渡そうとしたが、次の瞬間オレはぎくりと固まった。 見渡さなくても分かる…ここは、隼人の部屋だ。
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