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「悪ぃな、痛かった?」
煙草の煙を吐きながら、思ってもいないことを口にする。
睨んでやると何がおかしいのか口角を上げて笑った。でもやはり目は笑うことをしない…何考えてんのか分からないのが怖くて、発した声は震えた。
「どういう…つもりだよ…」
「どういうって。だってお前逃げようとすっから」
だから無理やり連れてきた、とまるで当然のことのように言うが、これはれっきとした犯罪だ。
殴って気絶までさせて…相変わらずの暴君さに呆れて言葉も出ない。
顔も見るのが嫌で背けながら溜め息をつくと、それに目ざとく隼人は反応した。
「何、悪いって言ってんじゃん。相変わらず可愛くないねお前」
「誰が…っ触んな!」
皮肉の言葉と共に、頬に伸ばされた手に過剰なほど反応したオレは、まるで害虫でも払い落すかのように隼人の手を強く叩く。
乾いた音が薄暗い部屋に響いた。
「触ん…な…」
上手く動かない身体を必死にずらし、ベッドの端に寄りながら何をされるか分からない恐怖に身構える。
その大仰なほどのオレの態度に隼人は肩を震わせた。笑っていやがる…コイツ。
「おーげさ。何かされると思ってる?それとも思い出した?」
「な、に…」
「あの時と同じ顔してる」
「…!」
あの時、と聞いた瞬間、一気に鳥肌が立った。
思い出したくもないのに、今この状況があの時とそっくりで…オレは恐怖のあまり血の気が引いた。
ヤバい…怖い…
このままじゃ、またコイツに…!
「…ぁ……」
どうにかして逃げなければと思うのに、身体が固まってしまっていうことを利かない。
隼人はそれを分かっている筈なのに、わざと訊ねるように首を傾げた。
「どうした?逃げねぇの?」
そう言いながら頬に伸ばされた手に、オレは驚き、大仰なほど飛び跳ねる。
もはや目の前に居る恐怖にただ慄くばかりで、思考すら上手く働かない。
だが、自分が蒼白しているのだけは分かった。極端に体温が下がり、その寒さで震えも酷くなる。
それに気づいたのは…隼人のオレに触れている手が、熱いと感じたからだ。
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