二章

3/4
415人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「悪ぃな、痛かった?」 煙草の煙を吐きながら、思ってもいないことを口にする。 睨んでやると何がおかしいのか口角を上げて笑った。でもやはり目は笑うことをしない…何考えてんのか分からないのが怖くて、発した声は震えた。 「どういう…つもりだよ…」 「どういうって。だってお前逃げようとすっから」 だから無理やり連れてきた、とまるで当然のことのように言うが、これはれっきとした犯罪だ。 殴って気絶までさせて…相変わらずの暴君さに呆れて言葉も出ない。 顔も見るのが嫌で背けながら溜め息をつくと、それに目ざとく隼人は反応した。 「何、悪いって言ってんじゃん。相変わらず可愛くないねお前」 「誰が…っ触んな!」 皮肉の言葉と共に、頬に伸ばされた手に過剰なほど反応したオレは、まるで害虫でも払い落すかのように隼人の手を強く叩く。 乾いた音が薄暗い部屋に響いた。 「触ん…な…」 上手く動かない身体を必死にずらし、ベッドの端に寄りながら何をされるか分からない恐怖に身構える。 その大仰なほどのオレの態度に隼人は肩を震わせた。笑っていやがる…コイツ。 「おーげさ。何かされると思ってる?それとも思い出した?」 「な、に…」 「あの時と同じ顔してる」 「…!」 あの時、と聞いた瞬間、一気に鳥肌が立った。 思い出したくもないのに、今この状況があの時とそっくりで…オレは恐怖のあまり血の気が引いた。 ヤバい…怖い… このままじゃ、またコイツに…! 「…ぁ……」 どうにかして逃げなければと思うのに、身体が固まってしまっていうことを利かない。 隼人はそれを分かっている筈なのに、わざと訊ねるように首を傾げた。 「どうした?逃げねぇの?」 そう言いながら頬に伸ばされた手に、オレは驚き、大仰なほど飛び跳ねる。 もはや目の前に居る恐怖にただ慄くばかりで、思考すら上手く働かない。 だが、自分が蒼白しているのだけは分かった。極端に体温が下がり、その寒さで震えも酷くなる。 それに気づいたのは…隼人のオレに触れている手が、熱いと感じたからだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!