一章

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自分を苛めていた男が、自分の好きだった女と付き合っていた。 歪曲心 「あれ?本宮君じゃない?」 そう話し掛けられた瞬間、嬉しい感情なんて少しも湧き上がってくる筈もなく、オレは顔を隠すように下に俯いた。 「久しぶりだねー、モトくん違うとこ行っちゃったから…何か感じ変わった?」 「……別に」 変わって当然だ。 もう、あの頃とは違う…一年は長い。 変わってないのはお前だよ、木下。 委員長だった時と変わらずそのままお節介なんだな。 あの頃はそれが嬉しかったけど、今となってはうっとうしく感じる。 何で話し掛けてきたりしたんだ。 放っておいて欲しかったのに 黙ったままでいると、重い空気が流れ始めたのに気付いた木下が、不自然なほどに声を上げた。 「なーんか可愛げなくなっちゃって。なんてね、隼人もなんか言ってよ」 やめてくれ 威圧を感じて、その視線に背筋が凍り付く。 木下の隣りの男がまともに見れない。 そう。木下の隣りの『彼氏』と思われる人物、 神埼隼人 お前にだけは二度と会いたくなかったのに。 『おいモト、ジュース買って来いよ』 『モト、千円借してくんない』 始めはパシリからだった。 しかしそれでも新しいクラスになりたての頃は、俺と隼人は友人だったのだ。 人見知りが激しく、知り合いが誰もいなかった教室で、俯きがちだったオレに隼人は気さくに話しかけてくれた。 しかしそれはすぐに狂気へと変貌した。 きっかけは…何だっただろうか、ちょうど環境に順応し始め、自分が他の奴等とも仲良くなれた頃だったように思う。 ある日突然、隼人がオレのことをぞんざいに扱うようになった。 始めは、パシリから。 戸惑うオレに対して時折暴力も振う隼人はまるで別人で。 だけど変わったのはオレに対してだけで。 口で逆らえば暴力を振られ、 目で反抗すれば蔑まれる。 逃げることさえも、叶わなかった。 隼人は人気者で、常にクラスの中心的存在で皆に慕われていた。 だから誰もオレの訴えになんて耳を貸さない。 それどころか周りの悪友共は面白がり、隼人と一緒になってオレを苛め始めた。 せっかく出来た友人達も皆、自らの保身のために離れてゆき、オレはまた独りになって… それでもただ、耐えるしかなかった。
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