一章

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周りから見れば、ただからかわれている程度の苛め。 だが本人にとっては苦痛でしかないのだ。 中三にもなって、人を侮蔑して何が楽しいのか。 小さいながらも暴力を受けた傷は増え、それは段々と心身共に蝕んでいった。 しかし、一年間この状況に耐えれば、卒業という逃げ道がある。 それはオレにとっての希望だった。 だから誰にも言わなかったし、言えなかった。 こんな自分にも自尊心くらいはある。大丈夫、一年我慢すればいいだけのことだ…そう自分に言い聞かせて。 『本宮くん』 そんな中、唯一変わらず話し掛けてくれたのが、クラス委員長の木下唯だった。 今思えば、それはただの正義感か同情心からで、木下はオレみたいな外れた奴を放っておけないタイプだった。 特別じゃない、そう分かっていても、あの頃の自分には木下だけが救いだったんだ。 それを恋だと勘違いしてしまう程に。 しかし考えてみると、木下と話した後、隼人のオレへの扱いは一層酷かったように思う。 それは…隼人も木下を好きだったからだろう。 今、それを目の当たりにして思う。そういうことかと。 オレはどこまでも惨めだ。 中三になってから、数ヶ月が過ぎ、半年が過ぎ…そうして日々を増すごとに悪ふざけはエスカレートする一方だった。 それでも慣れとは恐ろしいもので、毎日同じようなことを繰り返している内に麻痺し、何をされても何も感じなくなってきた。 酷い言葉を浴びせられてもいちいち傷付かなくなって…だが、わざと傷付いたフリをすることも出来る。 それは少しでも自分を守るため自然に身についた自己防衛であり、暗示だった。 ちっぽけなオレのたった一つの理性を保つ方法…けれど、それさえも簡単に崩されてしまう。 ある一言がきっかけで。 『なぁ最近コイツつまんなくねぇ?』 隼人の悪友の一人が放った一言。それに対し周りの奴等も“あー確かに”と怠そうに答える。 オレはその言葉に、内心演技がバレていると動揺したが、それ以上に期待した。 これで奴等が飽きてくれれば解放されるかもしれない…と、そんな期待を。 だがそれも隼人の言葉で一変する。
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