一章

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「─…モトくん?」 「っ…!」 呼び掛けられた瞬間、ハッとして我にかえる。 (……あ…) 「どうしたの…?凄い汗だよ」 そう木下に見上げられて、初めて自分が酷く汗を掻き、震えていることに気付く。 恐る恐る顔を上げると…そこには悪夢のような日々の元凶が、オレを射抜くように見ていた。 「久しぶり」 「─ッ!」 わざとらしく口角を上げながら、隼人は皮肉めいた一言を発した。その一言でオレの身体は異常なくらいに跳ね上がる。 全身が心臓になったみたいだった。 隼人の目が、まるっきり笑っていない。一瞬であの頃に戻ったかのような感覚に陥る。 何故今さら─…今でも夢に見る、苦しくて押し潰されていた日々をまた繰り返すのか。 冗談じゃない。冗談じゃなかった。 オレの人生はオレのものだ。誰にも壊す権利なんてない筈だ。 こんな奴に脅かされて生きていくなんて冗談じゃない。 早く、ここから逃げなければ。今出来ることはそれしかない。 思考が震えている脚を叱咤する。逃げてしまえばもう二度と会わずにいられる…早く、早く! 「─…っ」 「モトくん…?」 木下から声を掛けられると同時に後ろへと後退り、そのまま振り返って走り出そうとした──だが、瞬間伸びてきた手に腕を強く掴まれる。 あの時のことがまたしても頭の中でフラッシュバックした。
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