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「隼…人ッ」
「何逃げようとしてんだよ。久しぶりなんだからゆっくり話そうぜ」
親しげな言葉とは裏腹に、ギリ…と掴まれた腕に爪が食い込んでくる。
逃がさないとばかりに強く引かれて、バランスを崩したオレは倒れそうになるがそれを隼人が受け止めた。
触れられた肩が嫌悪で粟だつ。
噛み付くように睨むと、蔑むような目を上から向けられる。…あの頃と変わっていなかった、何一つも…コイツはオレが憎む気持ちのまるで何倍も上回るかのような、そんな視線で捩じ伏せてくるんだ。
そしてそれは日々を増すごとに強くなっていった。
どうして──そんな疑問は今さらだ、この関係はもはや修復不可能だと分かっているのに。
頭の中で警告が鳴る。
この手を振り切らなければいけないのに隼人がそれを許さない。あまりにも強い力にオレは堪らず悲鳴をあげた。
「痛ぇ…ッ離せ!」
「へぇ、ずいぶんな口利くようになったじゃんモト。いいのか?そんな事言ってっと…」
“あの事バラすけど”
後半のそれは、耳元で小さく囁くように言われたが、オレにはやけに大きく響いた。最悪だ―…まだコイツはオレを脅すための道具を持っているのか…
しかしそんなことは単なる脅しなだけに過ぎず、本気にする方が馬鹿げてる─、そう分かっていても、あんな事を他人に知られるくらいだったらオレは死んだ方がマシだ。
「…っ」
血の気が引き、震えだすオレを見て、隼人は満足そうに笑った。
…虫酸が走る。
最低だ、コイツ。
「ちょっとやめなよ隼人、モトくん嫌がってるでしょ」
オレの様子が異常だと気づいた木下が、間に入って隼人を宥めようとする。
しかし異常なのは、オレの方よりもむしろ隼人の方だった。止めようとして肩に掛けられた木下の手を、隼人は乱暴に振り払ったのだ。
これにはオレ自身も驚き、目を見開いた。
「隼人…?」
「お前は先帰ってろ。俺はコイツと話があんだよ」
振り払われた手をそのままに、ショックを受けた様子の木下に対し、隼人は冷めた一瞥を向けて言い放つ。
信じられなかった。コイツは付き合ってる女に対してもこんな態度がとれるのか。
「どうしたの…?隼人らしくな…」
「帰れっつってんだよ。二度言わせんな」
「─…っ」
食い下がる木下を見ることもせずに言い捨てる。
今度こそ傷付いた木下は、言葉もなくその場を去った。
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