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「じゃあ正信(まさのぶ)、行ってくるからな」
「行ってきますね」
共働きの父と母が出勤する。
「行ってらっしゃい」
僕はそれを見送る。
今日は土曜日だ、それでも親が出勤するのは、職業が公務員だからだ。
こうして見ると、普通の家庭にみえるが
それも心を繋ぎ止めるために演じているだけなのだ。
僕には弟がいる。
いや、正しくは「いた」だ。
弟――正行(まさゆき)は、僕より三つ下で、僕より頭がよく、運動も得意で、親の目もよく向いた。
そうだっただけに、正行の死の知らせは、家族の関係を引き裂いた。
三ヶ月前の一通の電話。
正行は交通事故により即死だったようだ。
親の見送りのあと、ふと二階に上がり、弟の部屋に入った。
あの日から変わってなくて、少しも汚れてない部屋……
嫉妬はしてなかった。ただなんとなく、世界から色が消えたような気がした。
度重なる親の喧嘩。
周囲からの哀れみの視線。
できの悪い僕に、親はすでに失望していて、離婚の危機すらせまった。
なんとか家庭は続いているが、以前のような僕と正行を比べる明るい会話もなく、ただ静かに「家族をして」いた。
「正行、僕にお前の変わりは無理だ……」
静かな部屋の中、僕の呟く声が虚しく響いた。
弟の変わりなんて………いっそ、産まれて来なきゃよかったのに………
ぴんぽ~ん
ふいに玄関のチャイムが鳴った。
なんだろう郵便だろうか。
「はい」 ガチャ
ドアを開ける。
そこには
黒いメイド服、
後ろに白いリボンを結んだ、肩までのストレートの黒髪、
一瞬人形かとも思う緑の目、
背丈は小学校5、6年くらい、
そんな容姿の女の子がたっていた。
「……なにか?」
返答に困ったが、取り合えずそう返した。
「久保田 正信さんですね?」
「………はい」
普通に返したが、おかしいことに気づいた。
普通に返したけど、なんでこの子、僕の名前がわかるんだ?
しかし、
次の言葉で、更なる疑問が生まれた。
「あなたの願いを叶えにきました」
「……………は?」
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