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「上野」
無意識のうちに、その背中を呼び止めていた。
呼び止めたところで、どうするというのか。
彼女もそれに倣うように、その足を止めるのに。
「今夜はどう」
「いいけど……えらく急だな」
「思い立ったが吉日って言うだろ」
思いつくままに言う俺に、上野は少し呆れ顔を見せる。
なんとか平静を装っているけれど、俺だって内心じゃ動揺してる。
自分の意味不明の衝動に。
「よかったら、山口さんも一緒にどう」
俺の提案に、彼女も、そして上野も固まる。
「え……」
「おいおい、いくらなんでも迷惑……」
「真央ちゃんも呼んだらいいよ」
慌てて口を挟もうとする上野の言葉を遮って、俺は笑顔でとんでもないことを口にしていた。
一体、俺は何がしたいのか。
でも、知ればいいと思った。
……いや、違う。
思い知ればいいと思ったんだ。
上野にとって、大切な人の存在を。
あぁ、俺は、彼女のことが嫌いなんだ。
自分の意味不明だった衝動に、やっと意味が伴ってほっとする。
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