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「あいざわせんせーっ」
「…」
「ねぇ、せんせーってば」
…今どきの高校生って、こう言うものなのか。
考えたところで、明らかに彼が変なヤツだということには変わりはなく
俺はソイツの病室から出てから頭を抱える暇もなく、次の作業を開始することにした。
あいつが、俺にまとわりつくのはいつもの事だった。
「ひゃーっ
さすが藍沢は違うね、男からもモテちゃうのか!
まぁ、赤西くんも負けないくらいのイケメンだけど」
「…207号室、昨日心停止を起こした患者のカルテは見たのか」
「おいっ無視かよっ!」
ナースステーションに戻ると
藤川に冷やかされたから適当にあしらう。
相変わらずこのナースステーションには藤川のテンションは不似合いだった。
時々助けられてはいるものの
大概はうるさいとしか感じられないから。
ぶーたれてカルテをめくる藤川に申し訳ないけど、舌打ちしたい気分になって
その変な高校生こと、赤西を頭に思い浮かべてはため息をついた。
* * *
「これ、鎮痛剤」
回診の最後は必ず赤西だった。
布団の上に雑に薬を置くと
お医者さんがそんなことしていいのー?
だのぶーぶーうるさい赤西。
「さっさと飲め
お前夜中ナースコール押し過ぎだから」
「じゃあ、あいざわせんせいが来てよ」
「俺がそんな暇に見えるか?」
俺が眉をひそめると
赤西はうつむいて、忙しいことくらい分かってるよ…と呟く。
「あ、そうだ
頭の痛みは治ったか?」
「あ、うん、治ったよ
まさかあんなとこに入れられるなんて思わなかったし~」
へらへら笑う赤西は先週、ヘリの要請があった列車事故の現場で
俺が足を切断せざるを得なくなった
高校3年生の少年だ。
赤西は大したことないのに、なんて笑うけど
あんなとこ=MRI検査は
頭痛を訴える赤西の、後遺症の可能性を心配する大事な検査だった。
幸い異常なとこは見つからなくて安心したけど。
事故のせいで、大好きだったサッカーができなくなったことを
俺は赤西の両親から聞いていた。
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