injury AA

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「今夜は手術入ってないんでしょ?」 カルテに病状を書き込み、ベッドの端に置かれたサッカーボールをぼーっと眺めていると 赤西がこんなことを言い出した。 たしかに今夜、オペは入ってないけど… 何故こいつはその事を知っているんだ。 「あの眼鏡の先生から聞いたよ」 俺の心を見透かしたかのように 言葉を続ける。 眼鏡なんて一人しかいない 藤川だ。 …あいつ、また無駄なことしでかしたな。 「俺さ、せんせーに話したいことあるんだけど」 ふと、赤西の視線は サッカーボールに向けられた。 まるで足が普通にあるかのように、いつも藤川並のテンションで俺に絡んでくる赤西も 足が使えない事に、やっぱり色々思うことはあるのだろうか。 「いつ患者が入ってくるかは分からないし、夜もそんな時間はないよ」 「いいよ、俺待ってるから 今夜はナースコール押さない」 それは助かる。 実は、普通なら迷惑であるはずの 毎日の真夜中のナースコールは その赤西のルックスから ナース達があたしが行くあたしが行くと 揉み合いになってたくらいだから まだ良かったんだけど やっぱりあの音は いつ聞いても慣れない。 「行けなかったらごめん」 「あいざわせんせいの仕事には、朝も夜も関係ないんでしょ? 俺知ってる」 「そう、だから赤西のバカにも付き合ってる暇はない」 「はっ?バカじゃねぇし! 俺が回復すんのに必要な時間かもしれねぇじゃんっ」 「病室では静かにしてください 他の患者さんに迷惑です」 俺がよく、言うセリフ いつもみたいに表情を変えずに言おうと思ったら 必死に無駄な時間じゃない と言い張る赤西がなんだかおかしくなってきて 自分の頬が緩んでるのが分かった。 「…あいざわせんせい、笑うと可愛いのに」 ぼそっと赤西が発した言葉は 聞こえないフリをして ナースステーションへ戻った。 おちょくられてるのは分かってたけど、嬉しかったから。 高校生のしかも男相手に… もっと違うことに頭を使えないのか、俺は結局頭を抱えることになった。 .
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