injury AA

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暗い病室にぼんやり浮かぶ白いライト。 消灯時間はとっくに過ぎているけど、やっぱり赤西は起きていた。 「…来てくれたんだ」 俺が病室に入ったことに気付くなり 一応気を遣ってるらしく、小さい声でそう言い 嬉しそうに目を細める。 …なんでそんな顔するんだよ 俺が来ただけなのに。 そんなセリフは、心の中でだけ 暗闇で顔から感情が読み取られない事がありがたかった。 「で、話ってなんだ …サッカーか」 「あぁ、やっぱりそう思った?」 「…違うのか?」 「あいざわせんせいなら、こうでもしないと来てくれないと思って ごめん…」 「いいけど、別に…」 そんなしょんぼりされたら 調子が狂う。 話を聞いてやることにした 一応、患者とコミュニケーションをとることも医者の仕事だし。 …そんなのは、今の自分の 気持ちを納得させる 言い訳に過ぎなかったけど。 「これ、聞いても 俺の怪我は見捨てないでほしいんだ」 「うん」 静かに話す赤西の声は、少しだけ震えている気がした。 「…俺、せんせいのこと好き」 「は…?」 「もちろんラブの方で」 「っ…」 こいつが、俺を好きだって…? 「引いた?」 「…引か、ない」 「えっ?」 自然と口から出た言葉に 赤西はひどく驚いていた。 あ、俺…なに言って…っ 「マジで? 俺があいざわせんせいのこと好きでも…?」 その声は震えていた。 引く意味が分からない むしろ…今嬉しくて仕方ないのはなんで? 「俺は…」 赤西が好きなのか…? 「ん…っ!」 不意に、左手を強く引っ張られて唇に柔らかいものが押し当てられた。 それが、赤西の唇で それが、キスだって分かるまでに 少し時間がかかって 気付いたその瞬間、自分の心臓が未だかつて無いくらいに 激しく音を立ててるのが分かった。 「ん…ふぁ…っ」 ちょ…っ! 後頭部を押さえつけられて そのまま俺が抵抗する隙も与えず、赤西の舌が口内に侵入する。 病室には、クチュクチュとイヤらしい水音が響いて 他の患者に気付かれてしまうんじゃないかって恐怖。 その空間を引き裂いたのは 俺の胸で、小さく振動を始めたPHSだった。 気付いた赤西が、名残惜しそうに唇を離す。 .
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