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二人は顔を見合わせてからこちらに向き直り、「本当に」と声を揃えた。口元はマフラーに隠れて見えないが、目元で笑っているのがわかった。
彼らは、隣のベンチに腰かけ、はあ、と息を吐いた。
「今年一番の冷え込みになりそうですね」と、男の子。
「自分が寒いから思うだけかもしれないけど」と、女の子。
「そんなものよ」と、私。
ついでに、「心が寒いから余計に寒いわ」と笑うと、「何かあったんですか?」と男の子が尋ねた。
行きずりの思い出も悪くないか、と、私は口を開く。
「不倫してたの。会社の部長と。それがバレて、その部長にクビにされちゃった」
「まあ……」
女の子が目を細める。
「しょうがないのよ。それを承知で付き合ってたんだから。でもさすがに、実際に身に受けると、……ねえ?」
「恨んでますか? その人を」
男の子が真剣な瞳で言った。
「そうね、ひどい奴だわ。でも、許そうと思ってるの。諦めた、とも言えるけど」
「どうしてですか?」
今度は女の子。
「んー、“どうして”……。『大人だから』としか言えないわね」
「そうですか……」
それきり、彼らは黙り込んだ。
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