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沈黙が、冷たい空気の中で色濃く芽吹いた。
「どこかへ行くの?」
最初の時と同じく、自然と言葉が滑り出た。
しばしの無言を待って、「はい」と男の子が言った。
「そっか」
私は、繋がれた彼らの手をちらりと見て、頷いた。
──私は何を言うべきなのだろう、この子たちに。
気の利いたことを言ってやりたいのに、歳ばかりとってちっとも成長しない頭では、何も出てこない。
そうしているうちに、見慣れた白い車が道路に止まった。
「あ」と漏らした私に、「お迎えですか?」と二人が顔を上げる。
「うん、そう。ごめんね、もう行かなくちゃ」
「いえ。お話できて楽しかったです」
またしても二人の声は、ぴたりと揃った。
荷物を抱え、立ち上がった私は、ふと振り返る。
「ごめん、私さっき嘘を言った。『大人だから』なんかじゃない。『好きだったから』だ。恋愛っていうのはエゴの固まりだし、人間を馬鹿にするけど、それでも幸福なものなの。何があっても、相手を許せてしまうものなのよ」
二人は、言っている意味がわからないようにほうけていたが、やがて花が咲くように笑った。
それだけで十分だと思った。
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