おじいさんと猫

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
毎日、夕方におじいさんは散歩をすることが日課でありました。 ある冬です。 おじいさんは家を出て、いつもどおり、桜の木が並ぶ道を通りました。 冬の冷たい風に空気は澄み、桜の木から葉をとっていきます。 桜の木は、枝だけになり なにも音をたてず、ただ、そこに並んでいました。 おじいさんが公園に行くと、決まって、コンクリートのトンネルの近くのベンチに座ります。 そこでお茶を飲むのが、おじいさんの楽しみでした。 ある日のこと おじいさんはいつもどおり 夕方、散歩に出かけました。 冬の静かな桜並木の道を通り、公園に行き、コンクリートのトンネルの横のベンチに座り、お茶の入った水筒をだします。 すると おじいさんの横にゆっくりと猫が座りました。 猫はおじいさんを見て言いました。 「いい香りがするなぁ。僕にもお茶をくれないかい?」 おじいさんはやさしい笑みをうかべ、コップにお茶をそそぎました。 猫はお礼を言うと、お茶をゆっくり飲みはじめました。 おじいさんもお茶を飲み、お茶がなくなると、猫に別れを告げて、歩きだしました。 次の日です また、おじいさんは葉を落としていく桜の道を通り、公園のベンチに座りました。 また、猫が来ました。 「やぁ、おじいさん。悪いんだけど、またお茶をいただけないかい?」 おじいさんは頷き、コップにお茶をいれて、猫にあげました。 毎日、毎日、毎日。 おじいさんと猫はお茶を飲みました。 ある春。 春の心地よい風とともに、桜の木には蕾が、隠していた顔をだしました。 猫は、夕方にいつものベンチに行きました。 おじいさんはいませんでした。 くる日もくる日も 猫はベンチに座って待っていました。 冬がやってきました。 桜の木は、また冬の風に葉をもっていかれ、木の風にゆれる音はならなくなりました。 公園のベンチには、おじいさんも、猫もこないまま、寒い夜だけが、やってきました。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!