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「今、何て…?」
香保里は言った。何かの聞き間違いであってほしい。
夜の公園は人影なく、脇を流れる川の水音だけがやけに騒がしく聞こえる。
「転勤することになった」
もう一度聞いた言葉は、やっぱり聞き間違いなどではなかった。
香保里は震える手で、ブランコの鎖を強く握りしめた。
「…どこに…?」
「京都の新店舗に、主任として行くことになった…」
香保里は立ち上がると、
「私は…!?どうしたら…」
「ごめん、香保里。別れよう…君はまだ大学生だし、結婚とか…考えられない」
これが、つい昨日まで愛を語り合った恋人のセリフだろうか?
香保里は全身が震え出した。
「…わかった…やっぱり私だけが、夢中になってたんだ!」
「ち、違うよ、香保里!何でそうなるんだ!?」
香保里はカバンの中からピンク色のポケットベルを取り出すと、目の前の男に投げつけた。
「わかったわよ!!別れてあげる!!それももういらないから!!」
そのまま一気に駆け出した。後ろで声がしたが、振り返りもせず走った。
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