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「あ、そうそう」
玄関のドアを開けたところで、真道が立ち止まる
「昨日、うちにマネージャーの巡回があったから、今日あたりそっちに行くかも」
「ウソッ!」
「夏物の展開チェックだね。今年は空梅雨で、南部エリアの南の方では、もう海水浴モノが動いてるらしいから。それと…」
「………?」
「四国エリアで大幅な人事異動があったらしい。何人かこっちに転勤になるみたいだから、ひょっとすると新しい店長が来るかも?」
香保里は驚いた。そんな情報、自分には全く入ってない。
29歳の若さで主任、しかも代行とはいえ1000坪クラスの大型店舗の店長を任されている香保里に、周りの目は冷ややかだ。
香保里は唇を噛んだ。
「思い詰めないで。俺も昨日、マネージャーから初めて聞いたんだから」
「お父さん!はやくー!」
優月が痺れを切らして言った。
「今、行くよー!じゃ、行ってくるね」
ドアがバタンと閉まる。車の走り去る音。家の中が静寂に包まれた後も、しばらく香保里は玄関に立ち尽くしていた。
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