433人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし亨はけなげに指輪を差し出す深雪の申し出を拒んだ。
その日が来たら必ず自分の方から深雪にそう言う。
だからそれまでは、深雪が大切に持っていてほしいと…
「亨…」
深雪は亨の優しさがたまらなく嬉しくて、その胸におでこをコツンとぶつけて甘えた。
これは深雪の以前からの癖である。
突然、ガタン!と物音がして二人はあわてて体を離した。
そんな二人を見回りに来た久美子の刺すような目が凝視していた。
「俺は諦めないよ。おふくろが深雪のことを認めてくれるまでは」
深雪をかばうようにして毅然(きぜん)と胸を張る亨を、久美子は完全に無視すると、
何事もなかったかのように見回りを再開した。
二人はこの母親の冷たい態度に愕然(がくぜん)となった。
だがこれがほんの予兆だったことに二人はまだ気付いていなかった。
これから二人を待ち受けている厳しい日々の前触れ(まえぶれ)だったとは…
最初のコメントを投稿しよう!