第1章

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その厳つい顔の前で亨は思わず黙り込んでしまった。 謝罪の言葉は十分に考えてきたはずなのに言葉が出てこない。 それでもかろうじて頭を下げると亨は消え入りそうな声で 謝罪の言葉を口にした。 「その節は大変な事をしでかしてしまい本当に申し訳ございませんでした」 その言葉を聞いた信也はしばらく黙っていたが、やがて口を開くと 「帰ってくれ。二度とその顔を見せないでくれ」 と言い残し部屋の奥へと消えていった。 亨はその場にいた信也の妹に向かってもう一度頭を下げると、木下家を後にした。 亨は自分の行動を悔やんだ。 <俺はなんて馬鹿な事をしたのだろう…> <事件の被害者にとって自分を苦しめた加害者の顔など見たくもないに決まっている>
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