第3章

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それは愛なりの気遣いであった。 このように大きな仕事を深雪がやり遂げたとなれば、大輔の口から母の耳に届くのは間違いない。 そうすれば母の考えも変わるかもしれない。 そう考えての事だった。 あまりの注文伝票の多さに最初は目を丸くした深雪も、愛の考えを聞かされて、心を動かした。 この大仕事を見事やり遂げれば、久美子も自分を認めてくれるかもしれない… そう思うと断れない気がした。 勿論、亨も一緒に手伝うと快諾(かいだく)してくれている。 「私、やらせてもらうわ!」 深雪は愛の暖かい心遣いに胸詰まる思いでそう答えた。 やがて土曜日の朝がやってきた。 出来上がったお弁当が次々に自転車の荷台に積み上げられていく。 深雪は、やったるで!とばかりに威勢良く腕まくりをして表に出た。 と…いるはずの亨の姿がない。
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