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「あっ、亨さん…?」
亨の存在を目ざとく見つけた美里がそう叫ぶと同時に、運命の女神が亨に味方した。
「木下沙織さん、診察室へどうぞ」
「はい!」
看護師に呼ばれて返事をしたのは亨であった。
亨は沙織の手を引きながら美里には気付かないふりをして診察室に逃げ込んだ。
沙織が亨に引かれている手をそっと放したのは、自宅近くの駅を降りて間もなくのことであった。
今日の事を兄に知られたくないからとはにかむ沙織を、亨は探るような目で見詰めながらこう尋ねた。
今日別の病院で診察を受けたことを、何故お兄さんに隠す必要があるのだろうかと…
「兄は、母が死んでから塞ぎ込む事が多くて…。だから余計な心配かけたくないんです」
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