433人が本棚に入れています
本棚に追加
今の自分には償わなくてはいけない相手がたくさんいる。
今の自分に何が出来るのかは分からないがこの先、亨はずっとその償いだけの為に生きていくつもりだ。
深雪には黙っていたが亨が刑務所にいる時に深雪の父、高志から一度だけ手紙が来た事がある。
そこにはこう書かれていた。
「娘には婚約者が出来た。二度と娘に関わらないでくれ」
だからもう深雪とは会えない。
「そんなのおかしい…」
深雪は顔を上げると亨をまっすぐにみつめてそう呟いた。(つぶやいた)
亨が今、厳しい立場にいる事は分かっている。
けれども深雪が聞きたいのは亨の気持ちだ。
そう問いかける深雪の前で今度は亨が首をうなだれた。
「無理だよ。やり直せるわけがないだろ」
きっかけはどうあれ、犯罪を犯してしまい、償うべき人間をたくさん抱えている自分に深雪を幸せに出来るわけがなかった。
婚約者の件もあった…
「なによ!深刻ぶって自分だけが辛いみたいな顔して、それが償いなの?そんなのただの逃げじゃない!」
亨の苦しみを自分にも分けてほしい深雪は心の中でそう叫んだ。
深雪のその切なる思いは亨の耳に届いていた。
お互いに愛し合う者達だけが共有できる心の耳に…
最初のコメントを投稿しよう!