第1章

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やがて深雪が口を開いた。 「覚えてる?ここ前に二人で来たよね。今くらいの季節でコスモスの花が一面に咲いていたよね…」 「ちょうど誰かの結婚式が終わったところで、花嫁さんが投げたブーケ、なんの関係もない私が受け取っちゃったね」 深雪は二人がまだ恋人同士にもなっていなかった6年前の秋、二人でこの教会に来た事を思い起こしていた。 「あの時のブーケまだとってあるの。今はドライフラワーになっちゃったけど、二人の思い出」 深雪がそこまで言った時、亨は何も言わずに車へと歩き出した。 「亨!」 「悪いけど、俺そういう思い出探しみたいな事嫌いなんだ」 「違う。そんなんじゃないの!」 深雪はそう叫ぶと後ろから亨の背中に抱きついて背中に顔を埋めた。 あふれる涙がとまりそうにない。
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