第1章

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その日、亨はいつもより早く目が覚めた。 外はまだ薄暗い。 いつもならもうひと眠りするところだ。 けれども、亨はこれ以上眠れそうにもなかった。 「主文、被告人を懲役4年6ヶ月に処する。未決拘留日数140日を本刑に算入するものとする。罪となるべき事実…」 あれから4年6ヶ月。 刑務所と外の世界をつなぐ通路にある重い鉄の扉が今日は亨の為だけに開かれるのだ。 やがて、起床の音楽が流れ始めると亨はゆっくりと起き上がり布団をたたんだ。 刑務所の朝は早い。 起床の音楽が流れ終わると5分もしないうちに、刑務官の「点検!」という雄叫びにも似た号令が廊下に響き渡る。 すると受刑者達は室内の定められた位置に座り刑務官が全員を確認し終わり、「点検終了!」と叫ぶのを待つ。 点検が終わると同時に朝食が配られる。 流し込むようにして朝食を食べ終わると刑務所内にある作業場へと向かう準備をしなければならない。 しかし、亨はもう作業場に行かなくてもよかった。 亨は自分に科せられた4年6ヶ月の刑期を終え今日、出所するのだ。
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