第1章

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刑務所の門の所まで来ると引率の刑務官が「じゃあ、気をつけて」と言い、亨は刑務官に向かって軽く頭を下げると刑務所を後にした。 自分が4年6ヶ月暮らした建物… ふと振り返ってみたい衝動にかられながらも亨は振り返ることなく歩き続けた。 「振り返るとまた戻ってくる」 いつか見た映画でそんな事を言っていたような気がする。 そんな事を考えながら亨が歩いていると遠くから見覚えのある人影が走ってくるのが見えた。 人影は亨の傍まで来ると、今にも泣きそうな顔で「ごめんね。遅くなってごめんね。でも、間に合ってよかった。お帰りなさい」とそう言った。 「おふくろ…」 亨の母、久美子は今年で62歳になる。 亨の幼い頃から体の悪かった久美子は最近ではめったに外に出る事もなく、歩くのも大変だと以前来た手紙に書いてあったのを亨は思い出しながら 「駅からここまで走ってきたのかよ?」と尋ねると、久美子はそれには答えずただ「帰ろうか」とだけ言った。
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