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母のその言葉を聞くと亨は「ここで待っててくれ」と言い残し、元来た道を刑務所の方へと走り出した。
[振り返るとまた戻ってくる]
……気にならなかった。
今は何よりも久美子をこれ以上歩かせたくなかった。
刑務所の門の前にある電話ボックスに入ると亨はポケットから封筒を取り出し、中から
10円玉を見つけ出すと、電話帳に載っていたタクシー会社に電話した。
封筒の中のお金は亨が刑務所の中で働いて得た僅かな給料が入っている。
金額は10万にも満たない
電話ボックスを出た亨は久美子の元に戻ると「これ、少ないけど中で働いて、もらったお金」と言って封筒を差し出した。
けれども久美子は「それはお前が一生懸命働いてもらったお金だから、お前が使いなさい」
と言って受け取ろうとはしない。
亨としてはどうしても受け取ってほしかったのだが、久美子は頑(がん)として封筒を受け取ろうとはせず、そのうちにタクシーが来てしまい、
亨は仕方なくポケットの中に封筒を押し込むとタクシーに乗り込み「I駅まで」と告げて窓の外へと視線を走らせた。
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