第1章

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N駅に着き列車を降りた亨は久美子に向かって「おふくろ、今まで心配かけてごめんなさい」と言って頭を下げ、すぐに頭をあげると走るようにして改札へと向かった。 改札を抜けると亨は「行くところがあるから」そう言って 久美子とは反対の方向に歩き始めた。 刑務所を出たら真っ先にやりたいと考えていた事、それは被害者への謝罪だ。 通常、事件の加害者に被害者の情報が教えられる事は無い。 しかし、亨は慰謝料を支払う為に被害者の了解を得て弁護士を通じ被害者の住所を聞いている。 バスに乗り込み被害者の住む町へと向かった亨はかつての恋人、深雪の事を考えた。 <深雪は今頃どうしてるだろう…> <深雪には刑務所を出る前に手紙を書いておいた。 にもかかわらず深雪が今日来なかったのは、やはり自分との関係を絶ちたかったのだろう…> そんな事を考えるうちにバスは被害者の住む町に着き、亨はバスを降りて被害者の家を探し始めた。
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