想紅

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高校の教室。彼は数学のノートを2冊抱えて私の机の回りをうろうろとしていた。 「静木 沙奈……しずき、さな」 「なに?人の名前連呼して…そんなに私の名前が気になる?」 「ぉわっ!!静木!?」 後ろから声をかけたら、彼はあらかさまに驚いて見せた。 「あぁ~、今の言葉に出てた?あのさ、俺の机に静木のノートが置いてあったから、静木の机に戻そうと思って」 そう言って彼は私の名前の書かれたノートを差し出した。 「誰かが間違って置いたのね、ありがとう」 高校1年生の春、これが彼と交わした初めての会話で、仲良くなるきっかけになった。 大学生になって学校が変わったけど、お互いに恋人がいなかったりすればよくメールをしたり、数人で遊びに行ったりするほどの仲になった。 そんな中、ちょうど10日前の事、「彼女にフラれた」と彼から電話があった。 10日前といえば、2月14日バレンタインデーだ。恋人達のハッピーなイベントで、皮肉なことに彼は一年付き合った彼女に愛の篭ったチョコレートではなく、別れの言葉を貰ったらしい。電話の彼の声は沈み切った涙声、友達として彼の落ち込みぶりは無視できない。私は気晴らしにと、カラオケに誘った。それが今日だった。
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