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冷たい手をいくらすり合わせても和らぐことのない寒さに、そろそろ限界を感じた時だった。
「静木~!」
名前を呼ばれて振り返った先には、走りながら手を振る小野寺君がいた。
私も手を振りかえしながら、彼の方へと足を向けた。
「ごめん!待っただろ?」
「ううん、待ってないよ。それより早く中入ろう?寒くて仕方ないよ」
「んだな!」
にかっと悪戯っぽいいつもの笑みを浮かべる彼と肩を並べてカラオケ店へ入った。店員に部屋へと案内されて、部屋の明かりを落とし、着ていたコートやマフラーをハンガーにかけて、早速とばかりに切り出した。
「その後は彼女から連絡来た?」
「…いいや」
言いようのない悲しい笑顔で彼は小さくそう言った。
「…俺、まさかこんな急に彼女と別れるなんて考えてもなかった」
無理やりつくった笑顔は崩れ、泣き顔になった。
彼は拳をにぎりしめて、ぎゅっとつぶった瞳から涙の雫がぽつり、ぽつりと零れ落ちた。
こんなに落ち込んでる姿も泣いている姿も、見るのは勿論初めてで私は何も出来ずにただ隣で、長い睫毛の影が掛かった彼の横顔を見守った。
「俺……俺さ、」
しばらくして、絶え絶えに話す彼の言葉に相槌をうっていた私に、彼が声色を少し変えて切り出した。
「彼女のこと、すっごく好きだった。」
「…うん」
「でももう、この気持ちは過去にしなきゃいけないんだ。叶わないなら、忘れた方が良いんだよな…」
寂しげな呟きが私の胸をチクリと刺した。
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