想紅

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叶わない願いなら、私だって持っている。 「無理に忘れる必要なんてないよ。そんな事したって苦しいだけ。 『好き』って気持ちは、目を背けて逃げようとしても、その想いは何処までも付いてくる。 逃げようとしても、向き合っても、どうせ苦しいならちゃんと向き合おうよ。 どんなカタチかは分からないけど、時が経てば自然と答えは見えてくるはず」 私はそう信じてる。 先の見えない想いだからこそ、そう思わないと報われない気がする。 「そっか…そう、だよな。いつかは時間が解決してくれるのかな」 BGMで流していた曲が終わり、テレビ画面にカラオケランキングのテロップが流れた。 「静木、どうしたの…?」 「え?」 顔を上げると、薄暗い照明の中で彼の涙に濡れた瞳が私を見ていた。 「今、泣きそうな顔してた」 「やだ、私そんな顔してた?泣いてるのは小野寺君なのにね」 私がぎこちなく笑顔を作ると、彼は大きな手で涙を拭った。 「ごめん、情けないところ見せちゃったな。メソメソしてるなんて、俺らしくないな」 大きく深呼吸をして、彼は明るい声で言った。 「よし!なんかスッキリした! 静木、ありがとうな」 ―どくん… その笑顔に心臓が悲鳴を上げた。 「静木がいて良かった」 「ううん、私なんて…」 ―どくん… 胸が騒ぐ。 あぁ、そうか。 私傷ついてるんだ。 「ホント、お前は良い友達だよ… 次は静木みたいなイイ女探さないとな」 駄目、そんな事言わないで。そんな目で見ないで。 大きな瞳、茶色の髪、癖のある声、やわらかい笑顔、私の眩しい人… あなたは知らない。私がどんな想いであなたの友達でいるのか。 あなたは何も知らないから、知らず知らずの内に私を傷つける。 「小野寺君、私って普通の友達じゃないよね? だって、私は女だから、普通の友達じゃ出来ない慰め方も私には出来るよ」 「え?」
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