恋待蕾

2/12
前へ
/136ページ
次へ
そりゃ怖かったさ。 彼女の意志が読めない分、聞いちゃイケない気がしてひどく怖かった。 行為が終わって、セックス特有の甘さとけだるさが残る体。 ―あぁ、壊れた。 そう思った。 何処か寂しげな空気を纏った沙奈が、ごめんね、とだけ告げてカラオケ店を出た後も、何も言えずに俺はただ彼女の隣にいた。 硬い表情のその横顔を盗み見ながら、ふと自分の体に残る彼女の匂いに気が付いた。 洗いたてのタオルのような、彼女の柔らかい匂い。 そりゃそうか、あんなに密着すれば匂いくらい移るだろう。 ―沙奈があんな目をするなんて… 俺の上に乗っかって、赤い炎がちらつく眼差しで俺を見ていた。 熱いのにどこか優しくて、何とも言えない胸騒ぎのする眼差しだった。 どうしてあんな事を? 今、何を考えてる? 問いたい事が山ほどあった。 つい数時間前までは、別れた彼女にそう思っていたのに、今俺の頭の中を占領しているのは沙奈だ。 「沙奈…」 意を決して、俺は彼女に呼び掛けた。 「どうして、あんな事を…?」 勇気を出してかけた言葉は、少しだけ震えてしまった。 「……」 答えようと口を開いた彼女だったが、それは言葉にならなかったらしく、そのまま沈黙してしまった。 「後悔、してる?」 「そんなっ!…後悔なんて…してない」 珍しく沙奈が声を荒げてそう言った。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

121人が本棚に入れています
本棚に追加