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そりゃ怖かったさ。
彼女の意志が読めない分、聞いちゃイケない気がしてひどく怖かった。
行為が終わって、セックス特有の甘さとけだるさが残る体。
―あぁ、壊れた。
そう思った。
何処か寂しげな空気を纏った沙奈が、ごめんね、とだけ告げてカラオケ店を出た後も、何も言えずに俺はただ彼女の隣にいた。
硬い表情のその横顔を盗み見ながら、ふと自分の体に残る彼女の匂いに気が付いた。
洗いたてのタオルのような、彼女の柔らかい匂い。
そりゃそうか、あんなに密着すれば匂いくらい移るだろう。
―沙奈があんな目をするなんて…
俺の上に乗っかって、赤い炎がちらつく眼差しで俺を見ていた。
熱いのにどこか優しくて、何とも言えない胸騒ぎのする眼差しだった。
どうしてあんな事を?
今、何を考えてる?
問いたい事が山ほどあった。
つい数時間前までは、別れた彼女にそう思っていたのに、今俺の頭の中を占領しているのは沙奈だ。
「沙奈…」
意を決して、俺は彼女に呼び掛けた。
「どうして、あんな事を…?」
勇気を出してかけた言葉は、少しだけ震えてしまった。
「……」
答えようと口を開いた彼女だったが、それは言葉にならなかったらしく、そのまま沈黙してしまった。
「後悔、してる?」
「そんなっ!…後悔なんて…してない」
珍しく沙奈が声を荒げてそう言った。
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