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「万引きロボットめ!」
そうだ、彼はロボットだ。育児用ロボットであろう。幼児向けの遊び相手となる機械だ。
「ごめんなさい」
不気味なまでに人に似せて作った顔。子ども服売り場で見かけるマネキンそっくりだ。
口元だけが上下に開く、腹話術人形方式だ
「何で万引きなんかした?」
これだけ聞くためにキャンプ地を越えて、鉄屑の奥地へと来たのだ。独特の錆び臭さが鼻を突く。
ロボットは指差した。いや、細いひんやりとした鉄の指のようなもので差した。
その指差す方向を見ると、四角い顔に電球を付け、口は動かないスピーカーのロボットがあった。
「お母さんが病気なんだ、壊れて動かなくて……」
お母さん?
ただの壊れたロボットじゃないか。
そんなぁ……
僕は自分の目を疑った。
錆びたロボットの周りには充電ボトルが五本散乱していた。
ロボットがロボットのために万引き?
「これが君のお母さんなの?」
「そうだよ、ずっと動かないんだぁ。でも、お金がないから……病院にも行けなくて」
まばたきをしない目が気持ち悪い。ある種の吐き気すら起こりそうだ。
胃液を飲み込み、僕は彼に言葉をかけた。
「これは君のお母さんじゃない、もうやめるんだ。
このロボットは直らない」
「治るよ!きっと!」
僕は突き飛ばされた。何に?
子どもだ。血の通わない子ども
「治るよ!治るよ!お母さん、大丈夫だからね」
充電口にボトルを差し込む。
僕は手を地についた痛みより、胸がズキズキと痛んだ。
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