序章

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   寒くなってきた。  季節は秋。山の緑が茶色に移り変わっていくさまに、その深まりを感じる。夏に比べれば幾分過ごしやすい気候だけど、これから冬になっていくことを考えると少し憂鬱だ。暑いのも寒いのも僕はあまり好きじゃないから。  どうして日本には四季なんてものがあるのだろう。温度がころころと変わっては、過ごしにくくてしょうがない。季節は一つに統一してもらいたいものだ。できることなら春に。  とはいえ、四季折々の風景まで嫌っているなんてことは、流石の僕でも全くない。そんなことまで否定したら、僕は日本人ではいられなくなりそうだ。季節の織り成す風景はどれも素晴らしい。それが蒸し暑い夏だろうが、凍えるような冬だろうが。むしろ、それらの方が際立っているのかもしれない。 「でも、やっぱり、暑いのも寒いのも勘弁してほしいな……」 「え、なになに? なにか言った?」  早朝。教室の中。窓側の席に座っていた僕の他愛のない独白に反応したのは、触覚のような髪を一束逆立てた女の子。肩口までのショートカットの似合う彼女は、僕の方を振り向き、快活な笑顔を作った。  
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