【いとしいひと】

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『ごめん、好きなんだ… 愛してるんだ… でも、怖いんだ……』 むかし、ビンタされたせいでわたしが鼻血を出してしまったとき、彼はわたしの顔をびっくりしたように見つめた後、呆然として、それからうずくまって泣き出して、こう言った。 そしてしばらくすると、彼はがびがびの鼻血がついたわたしの唇に、キスした。 あんまりうまくない、不器用な、ただそこに唇があったから自分のもくっつけてみた、そんなキスだった。 でもとてもうつくしい、わたしがいままで経験したどんなものよりもきれいなキスだった。 それ以来、彼は髪の毛を引っ張っても、首を掴んでぶんぶん振っても、ビンタだけは決してわたしにしてこない。 それに彼はわたしをはっ倒すとき、決してフローリングの床には叩きつけない。 ベッドか、ソファ。 そう決まっている。 わたしはそんな彼をとてもすきだなぁ、と思う。
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