【いとしいひと】

3/14
149人が本棚に入れています
本棚に追加
/116ページ
「すき、」 真っ暗な部屋で、わたしはいつものように呟いた。 なぜ真っ暗なのかというと、さっきわたしが開けたカーテンも窓も、すぐさま彼が乱暴に閉め切ってしまったからだ。 外は暖かくて、笑ってしまうくらいにいい天気だというのに、遮光カーテンで閉ざされた彼の部屋は暗い。 もうすぐ春だというのに、寒い。 きっと彼はもうすぐ春が来るってことさえ、知らないんだろうなぁ。 わたしがぼんやりとそんなことを思っていると、ははっ、と彼が乾いた笑い声を上げて立ち上がり、座っているわたしの髪の毛を掴んで引っ張った。 いたい。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!