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妻の予想外な言葉に私は狼狽したが、本当の事を言うわけにはいかなかった。
私はむにゃむにゃと言葉を濁し、妻が投げた本を手に取り、その作家について個人的な感想を述べようとしたが、妻は明日までもつかどうか分からない人間とは思えない鋭い目付きで私を刺し、片言隻語で私の決意を打ち崩した。
「あなたが言うべき事を言わないと私は何も聞きません」
私の更にうろたえた様子を見てとった妻は「言いなさい」と強い口調で言った。
妻のその声を聞いて、私は嬉しくなってきた。
これだけ力強く喋れる妻が明日までもたないわけがない。あの医者が嘘をついているのだ。嘘をついて、私の反応を見て遊んでいるのだ。そうに違いない。
私は妻の目を見据えて「言いたい事などない」ときっぱり言い切った。
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