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私は呆れながら言ったが、妻は「やはりね」とぽつりと呟いて笑った。
妻は笑ったが、私はちっとも嬉しくなかった。
やがて室内がうっすら赤く染まってきた頃、また妻が呟いた。
「一つ、約束しましょう」
その声は小さかったが、力強さはまだ残っていた。
「うむ、約束」
何だか懐かしいその言葉の響きを楽しみながら私も呟いた。
「どういった約束だ」
私が訊くと、妻はそれを質問で返した。
「私が今まで約束を破った事があったかしら」
ついにまともな会話も成り立たなくなってしまったのかと一瞬怯えたが、私は表情を崩さず答えた。
「そんな事は一度だって、ない」
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