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シオンは、カーテンの締め切られた薄暗いリビングに連れて来られて、ソファを勧められた。
ゆっくり座ってみると――上等な物なのだろう――ソファは焼きたてのパンのように柔らかくて、しっとりとした感触だった。
「うわぁ、ふかふかだぁっ♪」
シオンは、声を弾ませ感嘆の言葉を漏らす。
「…………」
「…?
ボクの顔に、何かついてますか?」
ふと、長い髪の奥から自分をじっ…と見るエリを不思議に思い、シオンは尋ねてみた。
「…………ただの子供にしか見えない」
「…へ?」
唐突な自分への感想に、少し躊躇の色を見せる、最新型のアンドロイド。
「…あなたが私に何をもたらしてくれるって言うの…」
その質問とも脅しとも取れる言葉に、少年アンドロイドは、自信に溢れた答えを返した。
「ボクは、エリさんの心を…
笑顔を取り戻すお手伝いをしに来たんです!」
自信と希望に輝く眼で、力強い笑顔で、返事をするアンドロイドに、少女はこう返す。
「父に言った事を…あなたにも…言うけど
…………私は、ロストハート
そんな事ができ…」
「っ出きます!」
「…っ」
言い切る前に言い切られた少女は、俯き気味の顔を、少しだけ少年アンドロイドから逸らした。
しかし、感情の感じられないその黒い瞳は、彼を横目に捉えていた。
「…良いわ
そこまで言うなら…やってみれば
…でも私が、ただのロストハートだと思わない事ね
…特殊な例なのよ
精神科医…そして親ですらサジを投げたんだから…」
「関係ありませんっ」
「………」
「ボクは精神科医でもなければ、エリさんの兄弟でも無いです
でも、家族にはなれます
友達にもなれます
肉親には出来ない事が、出来る事もあります
ボクは…それをやるつもりです…!」
少年アンドロイドの、機械仕掛けの眼の中に何かを垣間見たのか、少女は言う。
「……出来るなら…ね
シオン…だっけ?
何年かかるか………わからないよ」
「何年かかっても構いませんよ
エリさんの…心からの笑顔が見れるなら♪」
「………そ
…………………………よろしくね」
「はいっ♪」
シオンという名のアンドロイドは、心からの笑顔で返した。
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