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シオンがリンゴを買おうと思ったきっかけは、スーパーにいたおばちゃんたちの会話だった。
『知ってる~?
リンゴってぇ、カレーとかのルーとかソースに入れると、良いらしいのよ~』
『本当?』
『栄養あるからねぇ
風邪の時とかは良いらしいわ、元気無い時はリンゴねぇ』
商品棚の影でその会話を耳にしたシオンは、
『そうか…
元気無い人にはリンゴなんだな♪』
――という訳で、リンゴを多目に買ってしまった。
最も、エリの場合は風邪で元気が無い訳ではないのだが。
そんなこんなで、シオンは今荷物を持ち帰るのに苦労している。
一応彼はアンドロイドなので、並の子供よりはそこそこの力があるのだが…なにしろバランスの比率が悪い。
歩きにくそうで危なっかしい。
「うぅ~…
今度来る時は…なにか入れ物を持って来ようかなあ…」
などと、ぼやきながら坂道を下って行くシオン。
そしてどうやら自身のすぐ前に、大きなくぼみがある事にシオンは気がついて無いらしい。
きっと足が引っかかれば、シオンはひっくり返ってしまうだろう。
「…ぉっ!?」
案の定、シオンはそのくぼみにつまずいた。
びたん
何か、柔らかそうな物が固い物にぶつかる音が、シオンの頭に響いた。
「いたた…っ」
痛みで泣きそうになりながら、起き上がったシオン。
そして目の前に広がって行くのは、真っ赤なリンゴの大脱走。
「って…ああ―っ!」
シオンは急いで荷物を抱え、走り出す。
リンゴを追って。
「待ってぇ~!?」
リンゴは走る。逃げる。
コロコロと、ひたすら転がる。
「傷んじゃうよぉ~っ」
リンゴはあまり触りすぎると傷む。
転がるなんてもってのほかだ。
その時、曲がり門から180はあるであろう巨体がぬっと表れ、その巨大な腕がリンゴを全部捕まえてくれた。
「にょっ?」
シオンは立ち止まって、素早くリンゴを拾ってくれた、鉄の巨人を見上げる。
「…このリンゴ、ボウズのか?」
シオンを見下ろす巨人は、少しぶっきらぼうに訪ねてきた。
「う、うん…ありがとう」
シオンはおっかなびっくりな調子で、おずおずとお礼を言う。
「そか、危ねぇとこだったな
もう少し行ってたら、車道に飛び出て潰れるとこだったぜ?
もう、落とすんじゃねぇぞ?」
巨人は割と人懐っこい笑みを浮かべながら、しゃがんでシオンの頭をがしがし撫でた。
「うん、ありがとう…」
シオンは半ばあっけにとられつつ、少し汚れてしまったリンゴを受け取った。
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