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「…ぃ良し!これでOKだ!」
巨人は見た目によらず器用に、シオンの小さな鼻にバンソウコウを貼りながらそう言った。
「ありがとう、おじさん♪」
くすぐったそうに、シオンは丁寧にお礼を言った。が、
「おじさんじゃねぇ!お兄さんだっ!」
巨人は口を“へ”の字に曲げ、太い腕を腰に当てて、力いっぱい否定した。
そんな彼に悪戯っぽい笑みを返すシオン。
「あはは、ごめんねっ♪」
「…ったく、じゃ俺はそろそろ行くわ」
気付いていたのか、その台詞と共に、坂の上から資材を積んだ大きなトラックが2台、うるさいエンジン音を撒き散らしながら滑ってきた。
前を滑っているトラックの運転席の窓が開いて、
「おぉい、次の現場ぁ行くぞー!」
…と、だみ声が大きな、いかつい顔が覗く。
「今行きますよー!…じゃなっ♪」
巨人はトラックに返事を投げ返した後、ニッと頬を緩ませ別れの挨拶を言う。
するとシオンは、慌てたように早口でまくし立てた。
「あ、あのさっ
名前、教えてよ!ボクはシオン!」
「………俺はダンク!
またなシオン、もう転ぶなよ!」
「うん!バイバイ、ダンクっ♪」
お互いの名前を教え、別れを言う2人のPD。
ダンクは助手席に飛び乗り、トラックはゴトゴトと滑りだす。
ダンクが覗くサイドミラーからは、細い腕を振っているシオンが見える。
「…ふっ」
「どした、ダンク?
なんか、ヤケに嬉しそうじゃねぇか?
さっきのボウズとなんかあったか?」
含み笑いをするダンクに、ハンドルを握る先ほどのいかついオヤジが、顔に似合わない優しい目つきで訪ねてくる。
「え?ああ、なんかね…
あったかい奴だな…って思ったんスよ」
「そりゃおめぇ…
PDにだって、体温はあるだろうよ」
「………そりゃそうっスけど!
なんつ―か…ぬくもりってんですかね、そんなんを感じたんスよ」
サイドミラーからは、もう見えなくなったシオンを見透かすような、遠い目をしてダンクは言う。
「はん…
ま…世の中にゃ、そんな奴もいるだろうよ
ロストハートだのなんだの言ってる世の中だが…
まだ、捨てたもんじゃあねぇな」
「そっスねぇ…」
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