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シオンが楽しげに買い物に出て行ってから、もう2時間が経った。
買い物をする時間を含め、そのスーパーまでは往復しても1時間半程だ。
少し帰りが遅い。
刻々と時間は過ぎて行くが、まだシオンは帰って来ない。
「………ん…」
エリは、長い廊下の壁にかかっている時計と、頑丈な玄関の扉を、交互に見ていた。
「………どうし…たんだろ…」
靴を履きながら言っていた、すぐに帰って来ます、という台詞がふと頭をよぎった。
疑問に思いつつ、玄関に向かってみる。
「………」
まだ扉は開かない。
自動ドアのロックもはずれない。
足音も…聞こえない。
「………」
エリはサンダルを履いて、1年近く触れていなかったドアに近づく。
心臓が一瞬、小さく跳ね上がった。
…ガチャ
「ただいま帰りましたぁっ!」
「…っわ」
突然、元気いっぱいの声と共にドアが開く。
昼間の日溜まりに佇んでいるのは、緑っぽい髪色をした、笑顔の男の子だった。
「ただいまです!」
「………お帰りなさい…
…?どうした…の、そのバンソウコウ」
やや圧倒されているエリが、ふとシオンの鼻に貼られている、バンソウコウに気づいて指差した。
恥ずかしそうに、ほっぺを掻いて笑うシオン。
「えへへ…ちょっと転んじゃいまして…
親切な人が、バンソウコウ貼ってくれたんですよ~♪」
「そう…良かったわね…気をつけてね…
…ちゃんと…買い物してきた?」
「はい♪
リンゴも、買って来ましたよ♪
これでエリさんも元気になりま…す…?」
楽しそうに話すシオンの顔から、何故か、さぁっ…と血の気が引いていく。
額を掻きながら訊ねるエリ。
「…シオン…買い物袋は…?」
シオンは買って来たものを、
「あぁぁーっ!
さっきの坂の所に忘れてきちゃったぁ!!」
「………もぅ…」
シオンは家を飛び出して、今来た道を、結構な速さで逆走して行ってしまった。
エリは、また一人留守番になって思った。
(…こういう、ざわざわって言うか…
賑やかなのが…
『家族』って、言うのかな…)
「リンゴリンゴ…」
シオンは走っている。
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