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木で作られた、高そうなテーブルに並ぶ朝の食卓には、ネギと厚揚げ入りの味噌汁と香ばしい焼き魚、ほうれん草のソテー、そして切ったリンゴとミカンが置いてある。
一手間加えて、リンゴはウサギの形に切ってあった。
「…いただき、ます」
エリは虫の鳴くような声で、手を合わせてハシを持った。
愛想良く返事をするシオン。
「どうぞ♪」
「………」
ずずず…と、エリは味噌汁すする。
緑が映えるネギが、いくらかエリの小さな口に吸い込まれていった。
「ど、どうですか…?」
うずうずしながらシオンが尋ね、
「………普通」
素っ気ないエリの評価に崩れ落ちる。
「うぅぅ~」
一生懸命作ったのに、とばかりに、涙目でエリを見つめるシオン。
確かにシオンは朝早くに起きて、せっせと朝食作りに勤しんでいたので、少しエリの感想は素っ気なさ過ぎる。
シオンの悲しそうな表情を、無表情な眼で流し見たエリは、もう一度並ぶ朝食に視線を落とす。
「………でも、不味くは無いし…
魚の焼き加減は、良いんじゃない」
ふとしたエリの再評価に、シオンは春が来たかのようにパッと表情が切り替わった。
「本当ですかっ!やったぁ♪
これでも一生懸命作ったんですよ♪」
「…そう………頑張ってるのね」
「………」
エリのちょっと意外な言葉に、シオンは返事をするタイミングを逃してしまった。
「………?どうか…した?」
珍しく返事をしないシオンを怪訝に思ったのか、エリが尋ねてくる。
「………へっ?あ…あぁ、その…
エリさんの口から、頑張ってるなんて言葉が出るなんて、思わなかったんで…」
焦った様子で手を振りながら返事をするシオン。
「………そうね
私も…少しずつ、変わって来てるのかもしれない
……最近、よく眠れるの
前…シオンが来る前は、1日中言葉を発しない日だってあったし…夜も寝つきが悪くて、一晩中起きてる事も…よくあった」
これまた珍しく、文章を言ったエリ。
「あははっ♪
きっとそれは、元気になってきてる証拠なんですよ!
ロストハートだってきっと、すぐに治っちゃいますっ!」
そんなエリの無表情を見て、シオンは両手を広げ、温かい笑顔を浮かべながら言った。
「…私も…元気に?」
エリは子供のような上目使いで、そっと尋ねてきた。
「はい!もちろんですっ♪」
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