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食事後、シオンはエリの父親の書斎で、分厚い本を読んでいた。
薄汚れたハードカバーの表紙には、心理学と刻印されていた。
ぺらぺらとページをめくり、割と真ん中の方に記されていた、気分転換の項目を熱心に読んでいる。
真剣な翡翠色の眼差しは、小さくてじっと見ていると目が痛くなりそうな文字を、順調に追ってゆく。
「………」
しばらく読んで、重そうに本を閉じるシオン。
無機質な文字の列を、見ていた眼は、今は窓の外の青い空を捉えていた。
「今日は…天気も良いし、エリさんももしかしたら…」
エリは、だだっ広いリビングでふかふかのソファーに体育座りで、大きな画面がウリのテレビを見ていた。
今は、有名司会者のバラエティ番組を映している。
大体いつもエリは、テレビを見ている。
別段なにが面白い訳でも無いようだが、ただただ見続けている。
いや、見ているというよりも、眺めている、の方が適切かもしれない。
不意にエリの痩せた両肩に、小さな子供の手が置かれた。
「エーリさんっ♪」
「………シオン」
シオンの手だった。
少し緊張した微笑で、シオンはゆっくりとした口調で一つの提案をする。
「あの、ちょっと…提案があるんですけど…」シオンは、少し戸惑いの色を眼に見せながら、エリに優しく話しかけた。
「…お外に…出てみませんか?」
「……外………に?」
「はい」
エリは驚いたのか、目を丸くして聞き返してきた。
「…どうして…?」
「あの…ずぅっと家にこもりっぱなしだと、体に良くないと思うんです
だから…その
ちょっと、お散歩だけでも…行きませんか?」
真っ直ぐな目で自分を見つめるシオンにエリは、
「………興味…無い」
「やっぱり…嫌…ですか?」
「………」
小さくなったように切ない表情をする、シオンの目を真っ直ぐ見る事を、エリはできなかった。
「その…ちょっとだけでいいんです
だから…」
「シオン…」
一生懸命に訴えかけるアンドロイドに、エリは視線を投げた。
「…わかったから…
だから…そんな顔、しないで?」
その言葉がまるで花に水を与えたかのように、シオンの表情が明るくなっていく。
「本当に!?」
「うん」
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