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エリは外に出る事を決めた。
一度は拒否したものの、シオンの一生懸命な説得に動く事を、進む事を決めた。
自分も…変わらないと。
そんな言葉が脳裏をよぎる。
シオンが一生懸命なのは分かってるつもりだし、自分もロストハートを治して、今までの事をやり直したいとも、思い始めている。
だが、何かまだ自分から動ける気力は、無かった。
「………」
窓の外、暖かそうな陽光が降り注ぐ外の世界を眺めながら、エリはリビングに立ったままだった。
鳥の高い声が、静かな賑わいを見せている。
「エリさん?」
「あ……うん…」
不意に、シオンの透き通った声が投げかけられた。
エリはボー…っとしていた。
「行きましょうっ?」
微笑と共に手を伸ばすシオン。
自分のそれより小さな手。
握ると、温くて、柔らかくて、安心感を与えてくれるような手だった。
(…この子の手…こんなに温かかったんだ…)
今さら、とも思いながら、シオンに引かれて歩きだすエリ。
玄関に出て、靴を履き、扉が開く。
空は広くて青くて、太陽は明るくて暖かくて。
「………」
風が流れて、エリの長い髪がなびく。
「………」
「どうですか?お外は?」
黙ったままのエリに、シオンが話しかける。「……暖かい…」
自然に感想は漏れた。
二人は家から、すぐそこの公園にやって来た。
公園には小さい子供達が母親と、または家のアンドロイドと一緒に来ている。
母親達は、大袈裟な身振り手振りを交えて立ち話をしていて、子供達は思い思いの遊びをしている。
「あっ!エリさん、エリさん!
お花が沢山咲いてますよっ」
ふと、シオンは公園の中心に生えている大きな木を指差した。
その木には、ピンク色の小さな花が沢山散りばめられていた。
可愛らしい中にも、清楚さや可憐さを漂わせる、小さな花。
エリはそれを眺めて、花より小さな声で言った。
「………本当だ
あれはね…桜っていう、花なの」
「それぐらい知ってますよぉ~っ」
エリを見上げて、苦笑するシオン。
「……そうね…行ってみる?」
「はいっ♪」
二人は日の光で花びらが光る、大きな桜の木に向かった。
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