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桜の木はとてもとても大きくて、立派な木だった。
歴史を感じさせる太い幹は、所々皮が剥がれた痕や剥がれかけの皮が見られる。
しかしそれは、蛇や虫が成長の過程で脱皮するような、内から溢れ出ている、凄まじい生命力を誇示するものだった。
この桜は、まだ伸びるのだろう。
しなやかな枝を吹き抜ける風が、花びらをエスコートするように、花びらは散り、不規則に舞う。何千、何億あるピンクの花びらが、火の粉を散らすように舞っていた。
「綺麗ですね~…♪」
「…うん」
素直なシオンの感想。
桜を見つめるシオンの眼が、宝物を見つけた子供のようにキラキラと光る。
「あ、…あははっ♪」
「…?」
不意に、シオンが自分の顔を見て笑うものだから、エリが少し首を傾いで視線を落とす。
シオンは眼を細めて、細い人差し指をエリに向ける。
「エリさん、鼻♪」
「え?」
見ると、エリの鼻に桜の花びらがくっついていた。
「…花びらだ…」
花びらを手に取り、まじまじと見るエリ。
すると、
「………ふふっ」
「…エリさん?」
「…?」
まるでお化けでも見るような、とても驚いた表情をしているシオン。
「今…笑いませんでした?」
「私が…?」
エリは自身の表情の変化に、全く気づいていないようだ。
「…笑った…私が…?」
「そうですよ!
エリさんは笑えるんですよぉ!」
「…うん」
エリは少し頬を赤く染めて、恥ずかしそうに頬をかく。
「やったぁっ!エリさんが笑えたぁぁー!!」
シオンは両手を広げて、天まで届けとばかりに力いっぱい叫んだ。
歓喜の声は公園中に響き渡る。
「ちょっ…シオン…恥ずかしいから…」
エリは恥ずかしくなって、シオンを抑える。
「恥ずかしい?」
コクコクと何度も頷くエリ。
「やったぁーっ!
エリさんの羞恥心も…むぐぐっ!」
エリはこれ以上言わせまいと口を塞いで、
「…行くよ…!」
シオンの手を掴み、ズカズカと公園を出て行った。
「…あまり、変な事言わないで…」
二人は公園を出て、家へ帰る道を歩いていた。
ボソッと文句を吐くエリ。
「えへへ…でも嬉しかったんです
ボク、頑張った甲斐がありました♪」
「………」
「だからエリさん!
ボクも頑張りますから、エリさんも頑張ってくださいね!」
「…うん…!」
空は広くて青くて、太陽は明るくて暖かくて。
風が流れて、エリの長い髪がなびく。
エリが握るシオンの手は、温かくて柔らかくて、安心感をくれる優しい手だった。
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