エリの過ごした時間

2/7
前へ
/387ページ
次へ
気持ちの良い昼下がり。 シオンは、エリの部屋の整理をしていた。 もうかなり掃除してないらしく、部屋の隅にはうっすらホコリがたまっていた。 それでも、部屋の中心の辺りは割と綺麗だし、ベッドはしっかりとメイクしてある。 タンスの上に居座っている、ホコリを被った大きなぬいぐるみは、古代遺跡に眠る巨人を想像させた。 「――じゃ、床の掃除は頼むね ボクは窓を拭くから」 『了解、シマシタ』 シオンは足下の掃除機に命令して、水の入ったバケツを手にした。 掃除機と言っても、現在のように車輪のついたタンクにホースと吸い込み口がついたような、寸詰まりの象のような物ではなく、タンクの下に吸い込み口が直接ついたロボットである。 命令すれば人工知能が働いて、床掃除はもちろん、窓拭きから片付けを自動でしてくれる優れものだ。 見かけとしては、学校などにあるプラスチックのゴミ箱の蓋…そんな雰囲気だ。 「ちべたっ 春にはなったけど、まだ水は少し冷たいなぁ…」 小さな手で、ぞうきんを絞りながら呟くシオン。 因みにぞうきんはまだ存在する。 『オ湯デヤッテモ、汚レハ取レマスヨ』 背後から、掃除機がモーター音を唸らせながら言ってきた。 「じゃ、次水汲んでくる時は、お湯にしようかな♪」 シオンはイスに乗りつつ返事した。 窓拭きが終わって、次は本棚の整理。 厚い本や薄い本が、大きな本棚に沢山詰まっている。 「へぇ~ エリさんって、難しそうな本読むんだな~」 そう言いながら何となく、丁寧な装丁をした分厚い一冊を手に取るシオン。 「これ………何だろ?」 「エリさーん」 シオンが大きな本と分厚い本を持って上から降りてきた。 いつも通り、ソファでテレビを観ていたエリがゆるりと振り返る。 「…どうしたの」 「あの、これなんですか?」 シオンが手に持っていたのは、アルバムと日記だった。 「日記は分かるんですけど… この大きな本は、なんですか?」 「アルバムって…知らない? …写真がいっぱい貼ってあるでしょ 撮った写真を、その本に貼って…思い出を残しておくの」 「へぇ~♪見ても良いですか?」 シオンは目を輝かせて尋ねる。 「…うん」 「あの、良かったらエリさんの昔の話も、してくれませんか?」 少し意外な注文だったのか、エリは一瞬考えて、 「良いよ…でも、つまんないよ」 「良いですよ♪話してくださいっ♪」 屈託の無いシオンの笑顔。 「………そ」image=49288107.jpg
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

232人が本棚に入れています
本棚に追加