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――今、私には血の繋がりがある家族は、父しかいない。
母は1年前に病で亡くなってしまった。
それから父は、私がロストハートになってしまうまでの半年間、ずっと仕事に明け暮れてしまった。
今思えば、きっと私への接し方が分からなかったんだと思う。
半年前、ロストハートだと診断される少し前から、日記は途絶えている。
入学したばかりだったのに、学校にはもう1年近く行っていない。
「エリ~?どこ行ったの~?」
中心辺りに大きな桜が生えている公園で、若い女性が誰かを探している。
「エリ~?…もぉ~」
女性は腰に手を当て、首だけを回し、辺りを見わたす。
すると不意に、カサリ…と背後の植木が揺れた。
「…お母さんっ♪」
「ぅわあっ!」
中に隠れていたのか、なんと植木から少女の頭が現れた。
「…エリぃ
も~、どこ行ってたの?」
「にひひっ♪」
咎める声など気にもせず、少女は悪戯っぽく白い歯を見せて笑い、
「はいっ!お母さんっ!」
「…花輪?」
少女が手を広げて見せたのは、黄色や白の色とりどりの花で作った花輪だった。
「綺麗ねぇ♪でもなんで?」
「母の日だからね、プレゼントなんだよ♪」
「ほんとぉ?ありがとねエリ♪」
「うん!」
少女は無垢な笑顔で答えた。
母は面倒くさがりだけど、とても優しくて、あったかくて…
私は母が大好きだった。
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